森岡成好 天空の南蛮焼締

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森岡成好
天空の南蛮焼締

「鶴首」高さ23cm、径17.5cm

「鶴首」高さ23cm、径17.5cm



1948年に生まれ。韓国・慶州で焼き物のすばらしさを体得し、種子島で南蛮焼締に開眼。
土地に根付いた世界中の焼き物を訪ね歩き、天空の里と言われる和歌山の天野を拠点に、南蛮焼をライフワークに活躍する。

天空の里・天野に築窯
南蛮焼締で知られる森岡成好氏は、世界文化遺産の丹生都比売(にうつひめ)神社が鎮座する和歌山県かつらぎ町天野を制作拠点にしている。天野は、随筆家・白州正子が書いた『かくれ里』で知られる標高450メートルの天空の里。近くを走る中央構造線に埋蔵されていた「丹」(朱色の硫化水銀)を採掘した渡来の技術者集団が住んでいたとされる。4世紀に始まる丹生都比売神社は技術者集団の神・丹生明神及び、8世紀に空海を天野に導いたとされる狩場明神などを祀る。空海は高野山を開くにあたっては丹生明神などを勧請しており、神社は高野山の地主神としても祀られてきた。
良で生まれ和歌山で育った森岡氏は、小さいころから山登りに親しみ、学生のときは山岳部に入って山の中で大半を過ごした。そして骨董好きの祖父の影響もあり、好きな山の中で焼き物づくりをやってみたいと思うようになった。
岡氏は、高野山の工房で学んで独立した。しかし轆轤がうまく挽けず、1972年一から焼き物を学ぶために韓国の慶州に向かった。10日間ほど窯場に通い、仕事を見せてもらうことができた。それだけでなく、毎晩酒をいただきながら、いろいろと教えてもらい、それが氏の焼き物づくりの原点となっている。帰国後、地元で窯場を探している森岡氏の前に土地を貸してくれる人が現れ、74年窯神に導かれるようにして天野に入り、そして窯を築いた。

南蛮焼締を深める
は、瓦土に石を混ぜ、木型で固めて積み上げたもの。しかし、薪窯が焚けないという状況が独立してからずうと続いていた。森岡氏は、71年に唐津から移住した中里隆氏が住む種子島を訪ね、仕事を手伝う機会に恵まれた。焼いていたのは、南蛮焼のなかでも釉薬を掛けない焼締。現地で古くから焼かれていた焼き物だ。中里氏の南蛮焼締に魅せられた森岡氏はその後、それぞれの土地に根付いた焼き物の技法を極めるために、沖縄、北米、中米、韓国、東南アジア、インドなどを仕事の合間に何度も訪れた。
岡氏はその成果を凝縮した作品展を、国内だけでなく海外でも開催。81年のニューヨーク展では、大壺がニューヨーク近代美術館に買い上げられてパーマネントコレクションになるなど、焼締の評価は海外でも高い。
本では、南方から渡来した焼き物を南蛮焼と総称する。茶壺、水指、建水、茶入などが確認されており、施釉もあるが多くは無釉で褐色。フィリピン、マカオ、ベトナム、タイ、インドなどからもたらされたと伝えられているが、中国南部でつくられたものもある。窯印もなく、しかも作風がいろいろなので、産地の判らないものが多い。
「南蛮焼というと日本では焼締だけだと思われていますが、黒釉などいろいろな釉薬ものもつくられています。当時の日本人の嗜好に合わなかったため、渡ってこなかっただけです。私が訪れた範囲では、種類がいちばん多かったのはタイで、轆轤はどの国もうまいです。」

地元の素材を生かす
蛮焼に取り組む森岡氏の窖窯は、勾配が緩くて鉄砲窯のように長い。大きいほうの窖窯は焼成時間が9日で焼締を焼く。小さいほうは6日間であるが、焼締のほかに灰釉、黒釉、白化粧が加わる。他に、ともに歩んできた奥さんの由利子が取り組んでいる白磁や灰釉などの釉ものを焼く倒炎式の薪窯がある。使用している土は、平野の麓を流れる紀の川筋から採ってきたもので、腰があり粘り気に問題はない。須恵器にも使われてきた地元の土を使い、広義の南蛮焼に取り組んでいるのが森岡氏の現状だ。
2010年森岡氏は、八重山古陶復活を目指し、石垣島に工房と鉄砲窯を築いた。焼いたのは、南蛮焼締を始めとした黒釉、灰釉、透明釉などの生活雑器。使用した土は、石垣島の大里土、川平土、それに宮川土で、釉薬も古くから使われてきた地元の原材料を元に製造した。現地の素材による森岡氏の南蛮焼には、地球の健やかでたくましい生命力が焼き込まれている。



MORIOKA  SHIGEYOSHI  PROFILE
1948年 奈良県五條市に生まれる
1974年 和歌山県かつらぎ町天野に築窯
1974年 種子島を訪れ南蛮焼締と出会う
1974年 沖縄の窯場を訪ねる
1975年 北米、中米で土器を学ぶ
1976年 韓国の窯場を訪れる。以後十数回訪韓
1977年 東南アジアの窯場を訪ねる。以後十数回
1978年 台湾、沖縄の窯場を訪れる
1981年 個展(東京・南青山グリーンギャラリー〜97年)
1981年 個展(ニューヨーク、アーロン・フェイバーギャラリー)
1981年 ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクション(大壺)
1982年 インドネシアで土器を学ぶ
1982・83年 インド、スリランカの窯場を訪ねる
2001年 個展(ニューヨーク、コネチカット)
2010年 石垣島に工房と鉄砲窯を築く
2012年 石垣島で初窯